第13話 〜故郷〜
それから全速力で帰り、何とか儀式の時間には間に合った。
一応しきたりらしいので、一行は儀式に参加することはなかった。
しかし、お礼がしたいからという王の意向で、宮殿に一泊させてもらえることにはなった。
「まさか儀式の前に本物の契約石は渡してたなんてねぇー。」
夕食の後。一行に用意された豪華な部屋の居間にあたる場所で皆がくつろぐ中、ソファにうずもれていたセレナが言った。
「それだけ用心してたってことじゃない?ま、今となっちゃどうでもいいけどさ。」
それをさらっと流すラナ。それもそうか、とセレナも納得する。、明日には出発するので、一行は早々に休むことにした。
「皆さん、本当にありがとうございました!この世界を救うのは大変な事でしょうけど、頑張ってください!
私、何も出来ないけど、皆さんの無事を祈ってます!!」
一夜明けた朝。王と共に見送りに来たプリムがそう言った。お供はなく、どうやら人目を忍んでこっそり来たらしい。
プリムの激励の言葉に皆は笑って答えた。
「すみません、皆さん。我が国には造船技術が乏しいものでして・・・。」
続いて王が誤る。サハラには大きな帆船を造る技術が無い為、一行に海を渡る足を提供できない事を悔いているのだ。
もともとこの世界で造船技術を持つのは港町カナンだけらしいのだ。
「いえ、いいんですよ。セレナが何とかするって言ってましたから。」
ラナは王にそう言って笑って見せた。王はそれを見てすまなさそうに笑い返した。
「おーい、準備できたよ?いこっ!!」
少し離れたところで準備をしていたでセレナがそう言うので、皆は2人に別れを告げ、セレナのもとへと急いだ。
「んじゃ、始めるね!――我が声を聞きし者契約のもとに集え!いでよ青チョコボ!!」
書き終えた魔法陣の上でセレナが叫ぶと、ボスンッという音と真っ白な煙と共に5匹の青チョコボが出てきた。
前に見た黄色チョコボは地上用で、青チョコボは空中用だとセレナは言う。
黄色チョコボと違い、目つきの悪いチョコボ達はなんだか偉そうにしている。
「よっし!契約成功!!これでどこにでも飛んでいけるよん♪」
「だったらもっと早くにソレをだせよ・・・」
「もおーー!!やっと材料がそろったから出してあげたのにぃー!」
リランのツッコミに大いに抗議するセレナ。何はともあれ、これで足は出来た。
「そなたらの旅に幸運のあらんことを!」
「また来てくださいね!さようなら!!」
「ありがとう!!プリム!王様!」
チョコボに乗り込み、さっと空へ舞い上がった一行に、王とプリムが最後の言葉をいい、ラナが返事をした。
そして、一行を乗せたチョコボは翼をはためかせて飛んでいった。
「――さようなら・・・・・新たな英雄達・・・。」
「ああ。彼らならきっと、この世界を救ってくれるだろう。」
「そうですね、お父様。」
5羽のチョコボが小さな点になって消えるまで、親子は遥かなる大空を見つめ続けた。
「ええっと、風の精霊レモラは封印の森・・・じゃなかった。アルミラの森にいるんだっけね。」
セレナは皆にそう言ってチョコボを西の方へ向ける。
「アルミラの森?」
ラナがオウム返しのように問う。セレナは、言ってなかったね、と返して説明を始めた。
「今から2100年前――霊界サトュパスから悪魔達がこの世界を支配しにに来たの。
その親玉の名は魔王デスぺリオン。でも、そいつの目論みは失敗した。
それは2人の大天使様が悪魔の軍団を西の森に封印したから。だから、その森は当初封印の森と呼ばれていたの。
でもそれから100年後、魔王は再びよみがえった。そいつを完璧に封印したのは、2人の大天使様の生まれ変わり。
皆も知ってる2000年前のレイル。彼女の天使としての呼び名は、再生の天使アラミス。
アルミラの森ってのは、天使アラミスの功績を称えるためにその名をとってつけられたのよ。」
説明を終えたセレナは、いかにも、みなさんおわかり?と言いたげに皆を見渡す。
「昔のレイルがすごかったってのはよーくわかりやした。」
一瞬の沈黙の後、ラナがなんとかそういった。
「それにしても、セレナちゃんはすごいですね。古い歴史書にもなかなか載ってない事まで知ってるんですもの。」
ハープが感嘆の声をだす。シルフも頷く。リランは話の半分も聞いていなかったようだ。
「あ、皆!そこらへんに降りて!」
セレナが急にそう言って、下を指差す。アルミラの森と思われるものが、遥か下に見えた。
「あの森の前にある開けたとこは?」
「あぁ?んなもん見えねーぞ?ラナ。」
「目の錯覚じゃないかい?」
ラナがそう言って指差すが、リランとシルフは見えないと言う。ハープも首をかしげている。
「あぁー、それねえ。モヘン・ダナって言うの。『死の丘』って意味。でもぉ・・・死期の近い者にしか見えないって言われてんだけど?」
セレナがそう説明し、ラナを見る。他もラナをじーっと見た。
「あ、あたしは生きてるっつーの!!」
その視線にラナはむきーっと声をあげて怒った。
「・・・それより、何故セレナはそこまで色々な事を知っているんだ?」
今までの話の流れでは考えもつかないことをシルフが呟いた。セレナはかすかに反応を示す。
それを見てラナは、そういえば皆は知らなかったっけ、と思った。
「まぁ、言いたくないならそれでもいいよ。」
セレナの様子をみてシルフは、すぐに笑ってそう言った。
それから一行は地面に降りた。降りたところの近くには村が見えた。
「ゲッ!?おい、まさかあの村に行くのか?」
村を見たリランがあからさまに嫌そうな顔をする。
「そだよー?リラン兄、なんか都合の悪いことでもあんのー?たっしかーハイマだっけかなー。」
リランの言葉に、青チョコボを消したセレナがニッコリ笑って答える。
「チルチルチー(セレナ、絶対わざとー)」
「スーススススー(でも行きたくない理由はきっと知らないでしゅ)」
2匹は小声でそう言い合う。他も煮たような事を思っていた。
一行は結局ハイマという村へと歩を進める。だがリランだけはどうも嫌がっているようだ。
さすがに不審に思ったラナがリランに聞いてみた。
「ねえ、まさかだけどさ。ハイマってリランの故郷?」
当てずっぽうで言ってみたが、リランは黙っている。どうやら図星のようだ。
「・・・そーだよ。ハイマはオレの故郷だよ。オレはあんな田舎にいたくなかったし、有名な剣士になりたかったからよ・・・
勝手に村を飛び出したんだ。なのに、今更どんな面して帰りゃいいのかわかんねーんだよ!」
リランは重い口を開いたかと思えば、一気にまくしたてた。
とにかく、世に認められるような存在にでもならなくては帰りずらいということだ。
「あんたね、変なプライドもってんじゃないわよ。」
それを聞いて、ラナは珍しく静かに怒っていた。リランは一瞬で何か危ないスイッチを踏んだと確信した。
「会えるのに会わないなんてどういうつもりよ!会いたくっても会えない人だっていんのよ!
あたしだけじゃない。シルフさんも、ハープさんも、セレナも・・・。会いたいと思っても絶対会えないの!
なのに、あんたってやつは!!」
静かに怒り出したラナだったが、結局最後はものすごい剣幕で怒鳴っていた。
実は、ラナはまだ人の心が読める能力がある時に、知ってしまっていたのだ。
シルフが両親と死別した事。ハープが実の家族に捨てられた事。セレナが義兄を失った事。
すべて知っているからこそ、感情的になってしまったのだ。
「あ・・・。ご、ごめん!」
「・・・いや。オレも、悪かった。」
はっと我に返ったラナはすぐさま誤った。珍しくリランも素直に誤り返した。
先を歩いていた他3人は、話の内容こそ知らないが、喧嘩が収まったのをみて、胸を撫で下ろした。
その後は得に大したことも無く、一行は思っていたよりも早くハイマに到着した。
「うっひゃー!ここ、空気キレー!」
セレナは深呼吸をしながらはしゃいでいる。
「本当にのどかな所ですね。なんだか、世界の危機がうそみたいです。」
ハープはそう言ってあたりを見渡す。他もそうだな、と納得していた。
村は緑に囲まれたのどかな風景を持っていた。のんびりと家畜がそこらへんを闊歩している。
西洋の古き良き村の風景、といった感じかな、とラナは思った。
「おやまあ、誰かと思えばリランではないか!」
「げっ・・・。」
一行の前に現れた老人は、リランを見つけるなりそう言って笑った。一方のリランは顔が微かに引きつる。
ハイマには旅人なんてめったに来ないらしい。老人は他の皆にも興味をしめす。
だが、リランが帰ってきたことを村の皆に伝えねば、と言ってすぐさま去っていった。
「なんだか、嵐のようなおじいさんだったな・・・。」
「そ、そうですね・・・。」
シルフとハープがすこし疲れた顔でそう言う。他の皆も同様に疲れた顔をしていた。
「・・・なんか、すごいねぇー。」
村中の人が皆を取り囲むなか、セレナがため息をついた。
あの老人が行ってしまってから5分と経たずに村人全員がやってきたからだ。
そんな時、1人の女性が人ごみを掻き分けてやってきた。そして、叫んだ。
「リラン!!」
「おふくろ!?」
オレンジと黄色の中間色の髪をひとつのおさげにした、優しそうな女性は、リランの母だった。
「お帰り、リラン。この方々はお仲間さん?初めまして。私はリランの母のニーナです。」
皆も名を告げ返す。とりあえず家に、と言われたので、お邪魔する事にした。
「それにしてもすごかったわねー。」
「うん!村中の人が来るなんて、セレナもビックリだよー。」
家の応接間に通された後も、ラナとセレナはまだすこし興奮気味ではしゃいでいた。
「リランは村じゃ有名なんだな。」
「ちげーよ。単に人口がちみっとしかいねーの。」
シルフがそう言って笑うが、リランはすぐに否定する。
ハープはそんな皆の様子を笑いつつ、家をぐるりと見渡した。
リランの実家は昔宿屋をしていたらしく、とても広かった。
二階は吹き抜けになっているので、いくつか部屋があることが一階からでも確認できた。
話も一通りすんだ頃、ニーナがお茶を持って現れた。
「皆さん、何も無いところですがゆっくりしていってくださいね。」
「ありがとうございます。」
ニッコリ笑ってそう言うニーナに、ラナも笑顔で返した。
「ゆっくりっつっても、明日には行くつもりだぜ。」
「だが、ここを発つ前にウィード祭壇に関する情報を集めないといけないぞ。」
「そーだよー?ね、ね、おばちゃんはなんか知らない?」
リランがぼそっとそう言ったのと口切に、シルフとセレナが畳み掛けた。
「・・・あなた達、ウィード祭壇になにをしに行くの?」
さっきまで笑顔だったニーナの顔が急に険しくなる。
「え、えっと・・・。ちょっと風の精霊様のお参りに!」
本当のことを喋るのもどうかと思い、ラナはそうとだけ言ってはぐらかした。
「で?なにか知ってることとかねーの?」
リランはニーナにそう問う。ニーナはすこし迷ってから話し始めた。
「モヘン・ダナの番人をしているっていう少年が何か知ってるかもしれないわ。
でも、その子に会うのはあまり進めたくはないわね・・・。
その子、50年も昔からそこの番人をしているのに歳を取らないっていう話らしくって・・・
こう言ったら悪いんだけど・・・正直、すこし気味が悪いのよ。」
そういい終えて、ニーナはまたキッチンの方へと戻っていった。
ラナはセレナの方をちらっと見た。俯いているため彼女の表情はわからないが、きっとつらそうな顔をしていると思った。
「・・・セレナ。大丈夫だからね。」
「ラナ?」
そう思ったから、ラナは小声でセレナに言った。セレナはすこし戸惑ったが、笑ってだいじょぶだよ、と返した。
「リラン!!お前帰ってたのか!」
「お、親父!!」
扉がばんっと開いたかと思うと、リランの父が帰ってきた。父を見るなり、リランはとびきり嫌な顔をした。
「便りのひとつもよこさねぇで帰ってくるたぁ、いい度胸だなあ?お前。」
そんなリランの反応が気に障ったのか、ぱきぽきと指を鳴らしながら、男は近寄ってきた。
金髪と金の髭の初老の男は、きこりでもしているのだろう、がっしりした体格の持ち主だった。
(こっ・・・・・・怖っ!!)
皆の感想は同じだった。迫力がありすぎるからだ。
男は息子の仲間と思しき(おぼしき)人々に目をとめ、一礼してから名乗った。
「ああ、これは失礼。皆さん、うちの倅が世話になってます。俺はこいつの父、アレックス。まぁ、よろしく。」
「よ、よろしく・・・。」
すこし腰が引き気味のまま、皆は声を合わせてそう言った。
眠れないのは、平和すぎるからだろうか。夜風を受けながらラナは外にでた。
「あれ?」
ふと見ると、川のほとりに見慣れたシルエットがあった。ラナはすぐに気付いて近寄った。
「やあ、ラナにセレナ。」
「眠れないのですか?」
案の定シルフとハープだった。そしてこの時ラナはセレナが自分のすぐ後ろにいたことに気付いた。
「えへへ☆セレナも風に当たりにきたよん♪」
結局4人で川のほとりに座った。黙って川のせせらぎを聞いていたが、セレナが口を開いた。
「セレナが世界のこといーっぱい知ってるのはただ単に長生きしたからなんだ。」
急にそういわれ、シルフとハープは一瞬きょとんとする。ラナは、2人にも言う気なんだ、と思った。
「召喚師の素質を持つ者はものすごく少ないの。だから成人の儀を受けると、歳を取らなくなる。
ニルスもそう言ってたでしょ?船長さんと違って、セレナは長生きする方を選んだの。」
「・・・じゃあ、セレナちゃんは何百年も生きている、ということですか・・・。」
そこまで聞いて、ハープが驚きを隠せないままそう言った。
「そうだとしても、どうやって2000年前のことを詳しく調べたんだい?文献も資料もほとんど残されていないのに。」
まだ謎が残るらしいシルフはセレナにそう言った。セレナは笑って答えた。
「あはははは。その時代から生きてただけだよ。セレナはレイル・・・あ、天使アラミスって言ったほうがいいかな?
彼女と仲良くさせてもらったんだー。だから、魔王退治に行ったって知って心配になってさ。
偵察用の召喚獣使って無事かどうか確認してたから結果として色々知ることになったんだ。」
なるほどね、とシルフは納得し、ハープは更に驚いた。
「実はあたしは知ってたんだ。心が読めたときにね。」
それまで黙って聞いていたラナはそう告げて、黙っててごめんねとも言った。2人は別に構わないようだった。
「・・・リランさんには言わなくていいんですか?」
その時ハープが思い出したように言う。ちなみにリランは今頃爆睡中だ。
「いーんじゃない?あいつ他人の事気にしない性質(たち)だからさ。」
ラナがそう言って、それもそうだ、と皆は納得した。
「ところでラナ。君は結局どうするんだい?」
「へ?」
シルフが話を変えた。だがラナは何を聞かれているのか分からず、間の抜けた声をあげた。
「この世界に残るのか、それとも君の世界に帰るのか、だよ。
俺達にはここが現実(リアル)だ。でも君にとっては空想(ファンタジー)でしかないんだろう?
君にとってはとても重要な決断のはずだ。」
「私達は、あなたにここに居てもらいたいと思っているんですけどね。」
シルフとハープにそう言われ、ラナは少し驚いた。
だが、仲間が自分の心配をしてくれることが嬉しかった。ラナは口を開く。
「あたし、こっちに来てよかった!色々学べたし、皆とも会えたし。・・・あたしにとって確かにここは空想(ファンタジー)だよ?
でも、あたしが今、この世界のここにいるってことだけは変わりない。
向こうに帰る方法は無いって言われてるけど、やっぱ帰りたいって気持ちもある。皆といたいって気持ちもある。
正直・・・まだ決めれてないの。」
「ま、全部終ってから決めればいいじゃん!」
場の空気を一変させるのはセレナの十八番だ。楽観的だが前向きなセレナの発言に、皆は笑いを堪えられなかった。
笑っているなか、ラナは仲間――すなわち、信じあえる大切な人、の大切さを再度感じていた。
「じゃあな、親父におふくろ。」
「元気でね、リラン。」
「今度はもっとでかくなって帰ってきやがれ。この俺を越すくらいにな。」
「うるせぇ、デカブツ。」
夜が明けた出発日。ニーナとアレックスは別れの言葉を告げる。他の皆は一宿一飯のお礼と別れの挨拶をしたが、
肝心のリランはまともな挨拶ひとつしなかった。
「本当にありがとうございました。・・・・・・ちょっとリラン、挨拶くらいしなよ。」
「そーだよリラン兄ー。」
「チルチルチー・・・(照れくさいんだねぇ)」
結局リランはほとんど何も言わずに村を出て行った。皆も慌ててその後を追うが、ラナはニーナに呼び止められた。
「なんですか?ニーナさん。」
「ラナさん、リランのこと頼みますね。」
「へ?あ、はい。まかしといてください。」
ラナはニーナの言葉の意味が分からなかった。それを見透かしたようにニーナはクスリと笑って、ラナを送り出した。
(どういう意味なんだろ・・・?わっかんないなぁ・・・)
ラナはそう思いながらも、仲間の元へと急いで行った。
*あとがき*
りこ:今回戦いはなし!おもしろくないかにょ?でも、こーいう説明的なものも重要!
とりあえずがんばって風の精霊編を書いていくにょ!