第14話 〜死の丘〜
教えられた道をただひたすら北西に向かって進む。周りにこれといった風景もない。少し霧がでてきたせいで白く濁って見える。
「やっぱ災厄ってのは北から来るのがセオリーなのね。」
まだ前方にいるシルフとリランの姿は見えるが、霧のせいで視界は悪くなっていく。そんな中、ラナはため息をつく。
「はぐれんなよー?はぐれたってそこまで面倒みきれねぇからな。」
ぼうっとしていたラナに向かい、笑いながらリランが言う。
ラナはぷうっと頬を膨らませ、そんな子供みたいな事しないわよ、と呟いた。
「これから向かうモヘン・ダナにいる番人さんがなにかを知っているといいですね。」
「赤い髪をしているからすぐに分かる、っておばちゃんは言ってたよねぇー。」
ハープとセレナがこの先にいるだろう番人の話を持ち出した。
アルミラの森の手前にあるといわれるモヘン・ダナ。アルミラの森にいくならそのモヘン・ダナを通るほかない。
だが、常人には見えない場所にどうやっていくのか、そもそも一体モヘン・ダナとはなんなのか。
分からないことが多すぎるのが現実である。
「セレナでもモヘン・ダナについてはあまり分からないのかい?」
「うん。でもねぇ、2000年前にはモヘン・ダナに番人なんていなかったって事だけは知ってるよー。」
シルフに問われ、セレナがそういった。
シルフはセレナが2000年も生きてきたことを先日の話で知っているので、セレナは色々と話しやすくなったようだ。
「にしてもさ、赤い髪の人なんて今までいなかったよね。なんか特別なの?」
ラナが急にそう言った。皆の会話が途絶えたのもその瞬間だった。
「へ?どっどしたの?」
皆が急に固まったので、慌てるラナ。ラナは知らないもんねえ、と言ってセレナが説明に入った。
「セレナ達術師の間ではね、赤い髪に近ければ近いほど魔力が強いの。んでもって、髪が長ければ長いほど魔力の絶対値が高いの。
ちなみに本来、赤い髪ってのは悪魔を形容する言葉なわけ。魔王襲来のこともあって、悪魔は恐れられてるんだ。
だから、村の人は50年も生きてるのに、ぜーんぜん歳を取らないその少年が悪魔かもしれないって思ってびびってるの。」
「あー、なるほど。・・・でもさ、皆は怖くないの?悪魔かもしれないって人に会いに行くのにさ。」
村人が恐怖していたわけを知り、納得したラナだったが、すぐに新しい疑問が沸いた。
「赤い髪の人=悪魔というのはただの迷信ですから。」
「まあ、昔なら怖がったかもしれないけれどね。この旅のおかげで精神的にも強くなれたみたいだよ。」
「オレはもともとんなもん信じちゃいねぇだけだ。めんどい事は嫌いなんだよ。」
「セレナは今更そんな事くらいで驚かないよー☆逆に会うの楽しみかも♪」
皆に笑いながらそう言われ、ラナは、ああ、そう?としか返せなかった。
まあ、差別や偏見を持ってないことに違いは無いから別にいいか、とラナは思った。
「あははは、面白いね君たち。」
「!?」
どこからともなく響いてきた少年の声。一行はハッとして辺りを見渡す。今まで視界を遮っていた霧が嘘のように晴れていく。
「や。今君たちの目の前にはモヘン・ダナがあるんだ。分からないだろうけど。」
「あ、あなたがここの番人?」
「そうだよ。名前はカルル=スピリコット。」
突如目の前に現れた赤い髪の少年に向かい、ラナが言う。驚いた為か、少し声がうわずっていた。
その問いに少年、カルルはニッコリ笑って答えた。
気がつくと、カルルは左右に変な生物を連れていた。いつ現れたのだろうか。
「ポポと申しますポミュ。」
「・・・・・・ガル。」
魔女の帽子をかぶった幽霊と、蝙蝠なのか猫なのか分からない悪魔がそう言った。
「ホントにこの先がモヘン・ダナ?」
「嘘じゃねぇだろうな?」
思いっきり訝しげな目をするラナとリラン。正直実感がわかない、というのが理由のようだ。
「嘘じゃない。現に死に近い者はここを通っていく。」
落ち着いて静かにそこに立ってみると、たしかに死の丘なのかもしれない。
世界から孤立し、死というものを肌で感じさせるような空気。それは冷ややかで、ただ静かだった。
よく見ると、遠くにうっすらと森が見える。
「ねえー。わかったからさぁ、結界といてよー。」
セレナが不満そうにそう言った。カルルはそれを聞いて、何も言わずに結界があると思われる方へ向いて叫んだ。
「」
景色がぐにゃりと曲がって見えた。やがておさまり、穴が開いた。穴からはなんとも形容しがたい空間が見え隠れしていた。
「さ、行ってくださいポミュ。」
「・・・途中まで道案内・・・。」
「僕はここに残らなきゃいけないから。2匹についていってね。」
カルル達にそういわれ、分からないまま、一行は穴へと入っていく。
その際、ラナがカルルに聞いた。
「いくら番人っていってもさ、こんなとこで1人でいるのって寂しくない?」
それを聞いてカルルは自嘲気味に笑った。
「僕はこの先に容易に人が近づかないように見てなきゃいけないんだ。それに・・・ちっとも成長しない子供がいるなんて不気味だろ?」
「そうかな?あたしはそうは思わないけど。そういう子、傍にいるし。
本人は大人になれないってわめいてたけど、大きくなろうがなかろうがあの子はあの子だから。
それでいいじゃないって思うよ。」
自嘲的な笑みの理由は聞かなくても分かったので、彼女はあえて笑顔でそう返した。
カルルは驚きながらも、ラナにつられて笑った。
「・・・僕は、僕のままでいいんだ・・・。」
そう呟いて、穴へと進んでいった一行を見送った。
「ファイアウォール!!」
ラナがそう叫ぶと、炎の壁が敵の周りを囲みこんで焼き尽くす。
「全ての海を治めし水の精霊よ海の力を畏れなせ!
我らに光を与えし火の精霊よ灼熱の地獄をこの者に!
リヴァイアサン!!バハムート!!」
また違う所で、でセレナが精霊を呼ぶ。
大波が押し寄せ、渦を巻き、リヴァイアサンが現れる。嵐と洪水が一緒くたになった様子だ。
間髪いれずに、天地両方から炎が噴出し、バハムートが現れる。一瞬のうちに水の海が炎の海となる。
両者が競うように水と炎を操り、容赦なく攻撃を続ける。
「うっわぁー・・・地獄絵巻じゃん。」
その様子を見たラナは、うげっとした顔をする。他の者も、似たような様子だ。
「つかよ、なんでこんなに骸骨だらけなんだよ?」
リランがそう言いつつ、敵を切りつける。さあ?、とラナは返してまた攻撃にもどった。
「こっちですポミュ。」
「・・・・・早くこい。」
「あの2匹にはこれが日常みたいだね。」
まるで何事も無いかのごとく、皆に道を示すだけの2匹に、シルフは苦笑する。
「天を駆ける光よ神の裁きを!レイ!!」
なかなか減ってくれない敵に、ハープも呪文を放ち続ける。
シルフとリランは物理攻撃ではなく、炎系攻撃で応戦する。手段が限られているので、戦いにくそうだ。
”――いい?スケルキラーは炎と光が弱点なの。術系攻撃ならなんでも効くけど、物理的攻撃は効かないの。
砕くんじゃなくって、骨の髄から消滅させるの!”
スケルキラーに会うなりセレナがそう言ってから早2時間。皆はそれに従った攻撃をつづける。
だがそろそろ体力も魔力も限界に等しい。明らかに疲労の色が浮かんでいる。
「うん、もういいですポミュ。」
「・・・合格。」
2匹はそう言って、手をたたいた。
すると、さきほどまでいた大量のスケルキラーが一瞬のうちに消えてしまった。
「チ、チルチ!?(なんですかー!?)」
「ススー・・・(消えちゃったでしゅ)」
突然の事に驚く一同。だが次の瞬間、肩の力が抜けたのかその場に座り込んでしまった。
「一体、どういうことでしょうか?」
「ポポ、ガル、説明してよ!」
うろたえながらハープはそう言い、ラナは2匹に説明を促す。
「カルルの命令ポミュ。ここで2時間立っていられたらアルミラの森へ通してもいいことになってるポミュ。
「お前達合格・・・。通れ。」
「変なのぉ!」
「まったくだぜ。そもそもなんでこんな事しなきゃなんねーんだよ!」
2匹の言葉に、すかさずラナとリランが不平を言う。
「しょーがないの!森には魔王デスぺリオンの城跡と霊界サトュパスへ続く洞窟があるんだから。
魔王デスペリオンの魔力の痕跡がまだあって魔物は今までよりも凶暴になってるし、
もしかしたら霊界の気にあてられちゃって、死んじゃうかもしれないんだよ!?」
ぶーぶーと文句を言う2人にセレナが一喝した。2人は、はいスミマセン、と言っておとなしくなった。
「え、えっと、その通りですポミュ。本来ここは身体を脱ぎ捨てて純粋な魂になるための場所ポミュ。
この先の森は魔力とは違う霊力というものが充満してて、霊力は生身の身体には結構痛いんだポミュ。
だからこそ、それ相応の体力と魔力がなきゃ耐えられないんだポミュ。」
ポポがセレナの迫力に押されつつも、そう言った。
「なら、ここから先はもっと気を引き締めていかなくちゃいけないな。」
「そうですね。早く精霊様のところに行きましょう。」
シルフとハープがそう言って、皆も頷いた。
「死ぬつもりはねぇし、さっさと行こうぜ!」
「そうだねリラン、ギガドールに先を越されないうちに!」
「いっよーっし!れっつごー!!」
一行が士気をあげたのを見て、ポポとガルは笑いあった。
この人達なら大丈夫。弱いかもしれないけど、誰よりも強くもある。
そして何より、信じられそうな気がする。そう感じて、笑った。
「・・・コレ持っていけ。」
ガルが一行に何か袋を手渡す。
「なにこれ?薬?」
袋の中身を見ながらラナがそう言う。袋には人数分の緑色の丸薬が入っていた。
「霊力が充満してる中では、普通の人は呼吸困難に陥るポミュ。そうならないための薬ポミュ。」
「・・・多少なら痛みも減る・・・。」
ポポとガルはそう説明した。
「ありがとう、2匹共!」
皆を代表してラナが感謝の意を述べる。
それから、一行は森へと進んでいった。
「カルルに報告するポミュ。」
「・・・了解。」
満足そうに2匹はそう言った。
その頃街や村では、ある一つの噂があった。
それは、”選ばれし5人の強者(つわもの)が魔の根源を振り払い、自分達を救ってくれる”というものだった。
魔物に怯えて暮らさない日はそう遠くもない。それが人々に希望を与えていることを、一行は知らない。
だがその噂は確実に、一種の伝説へと変わっていくのであった。
*あとがき*
りこ:さあさあ、皆は最後の精霊がいるアルミラの森へと無事に行きましたにょ!
一応原作ではこのお話で中編完、となっておりやすにょー。
この先一体どーなる?
・・・はい、すんません。話がまとまってません!
なんとかするんでまっててにょ!待て次回!!
誤字脱字ダメだしはBBSとかでよろしくにょー。ちゃお!!