第15話 〜小人〜
「って・・・森にも結界があんじゃねーかよっ!」
モヘン・ダナを抜けた先に待ち構える森を見るなり、リランは声を荒らげた。
うっすらと薄紫色の結界が見える。これもはるか昔から存在するものなのだろう。
「あーあ。やっぱりまだあったんだー。」
結界をまじまじと眺めながらセレナは大仰にため息をついて見せた。
何のことだか全く分からない他の者達の頭には?マークが飛んでいる。
「えーっとね。この結界は魔王を封じてたもののなごりなの。
かつての再生の天使アラミスとあんまり知られてないけど、浄化の使徒ルカオン――
’赤髪の悪魔’も通ったとこだよん。」
少しの沈黙。そののち混乱。
いままで再生の天使アラミス、すなわちレイルの話はさんざん聞いてきたが、
ここにきて、いきなり新たな人物の登場にいささか戸惑っているようだ。
「えーっと、その浄化の使徒っての?それは一体何なわけ?」
ラナがそう言って更なる説明を促す。
それを聞いてセレナはにっこり笑って説明を続けた。
「あいあーい♪歴史書には‘浄化の使徒‘としか書いてないんだけど、その正体は!
天使アラミスを暗殺しに来た悪魔だったわけ!
でもどういうわけか天使に肩入れしちゃって・・・というか惚れちゃって?
魔王を裏切ったの。だから今は‘浄化の使徒‘として語り継がれてんのさ!」
一同は声をそろえてへぇーっと呟いた。
浄化の使徒という存在自体はシルフやハープも知っていたようだが、
その正体が悪魔だとは知るはずもなかったようだ。
やはり『真実の歴史を知る者』というのは違う。
「・・・で?んなことよりどーやってここ通んだよ。」
本当にそんな事はどうでもいいんだよ、という顔でリランがそう言い放った。
セレナはその発言に、そういやそうだったーと返して結界を見た。
「セレナ、ちゃーんとここを開ける呪文知ってるから大丈夫!」
「チルチルチー(さっすがセレナー)」
「スーススースー(魔族語もばっちりでしゅね)」
どうやらモヘン・ダナやアラミスの森の結界を解く呪文は魔族語という言葉らしい。
セレナはそれを解しているからこそ、ミルやスーヴと言葉が通じるのだ。
「じゃあ、この結界もすぐ解いてくれるんだね。」
「お願いしますねセレナちゃん。」
シルフとハープがそう言ってセレナを見た。
まっかしといてー!といいながらセレナは手をひらひらさせた。
「」
セレナがそう言い放つと、結界から扉のような形の穴が目の前に現れた。
「カルルんときとまたちょっと違う感じだね。」
そう呟くラナを尻目にセレナと2匹が皆を促すので、一行は先に進むことにした。
平和に見える森の中でも、魔物(モンスター)はたくさんいる。
というか、霊界の気が漏れてるから、外にいる奴らよりも強い。
まあ、おいら達小人族や妖精族は魔物に見つからないからここで暮らせるんだけど。
やっぱり結界があっても魔物もその中にいるんだからあんま意味ないよなぁ。
・・・お?誰か来た。しかも人間だ。何でこんなとこに生身の人間が?
もしかして、契約者?
そういやこの森の魔物も更に凶暴化してきたし、
レモラ様は祭壇にこもりっきりで、祭壇に行こうにも魔物に塞がれちゃってるし。
よくわかんないけど、何かこの世界には変な事が起きてる。
んー・・・よし!
いっちょ見に行くか!
うっそうと茂る森の中をただひたすら道なりに進む一行。
だが、道標も何もないこの森の中で風の祭壇をどうやって探せばいいのだろうか。
そんな不安の中、一行はこの森が何か他の森と違う雰囲気が漂っていることに気が付き始めた。
「・・・おかしいな。静か過ぎる。」
「んー・・・何にも聞こえてこねぇな。風すらねぇ。」
最初に口火を切ったのはシルフ。それにリランが続く。
「この森にも何か異変が起きているのでしょうか?」
ハープが恐る恐るそう言う。
葉ずれの音、鳥のさえずり、そういったものが一切ない虚無の空間。心なしか日の光も薄い。
「・・・ねえ、ちょっといい?」
そんななか、急にラナが口を開いた。
皆は一体何事かと思い、とりあえずどうぞと言って促した。
「この世界に人間同士の争いってないの?魔物だけが人間の敵なの?
あと・・・ギガドールってのは一体何なの?」
「矢継ぎ早に質問をしてきたね。発言が急なのはいつものことだけどさ。」
聞きたいことを一気に言ったラナにシルフが苦笑しつつ返した。
「んー・・・ギガドールの正体は分かってると思ってたんだけどなぁ。
ま、いいや。いい?ギガドールはね、悪魔。
魔物達に負の波動を与えて洗脳できるのは悪魔だけなの。」
そしてセレナがそう解説した。セレナは続けて言う。
「・・・でもさ、魔物も被害者なんだよ?魔王が現れた時もおとなしかったはずの彼らが
急に暴れだしたんだ。でも皆はそれを知らないから皆にとって魔物は共通の敵なの。」
その表情は少し哀しみが感じられた。
「人々の争いは歴史上にも存在していませんね。」
「まあ、昔から人類共通の敵がいたせいかもしれないけどね。」
ハープとシルフが続けてそう言った。
「じゃあ、ギガドールを倒しても平和が続くとは限らないんだね・・・。」
ぼそっとラナがそう言った。だがその呟きは皆の耳には届かなかった。
「なぁ、そーゆうムズイ話はヤメよーぜ。頭痛くなる。
とりあえずギガドールをぶったおしゃ平穏な日々が帰ってくんだからよ。」
いつもの調子でリランが話を遮る。彼は小難しい事と面倒な事がキライなのだ。
皆はそんな彼を笑い、とりあえず話を終らせた。
しかし、ラナは一人思っていた。敵のボスを倒せば平和な世界になって終わり、なんて事はない。
ラナはこの世界はゲームやアニメなどと同じようなものだと思っていた。
だがここは決して仮想の世界ではない。ちゃんとした現実の世界だ。
自分が元居た世界と同じ、現実の世界なのだ。
魔物という共通の敵がいなくなったなら、人間同士の争いが生まれるかもしれない。
もしも自分の世界のように戦争でも起これば――?
・・・平和ってなんだたっけ、とさえ彼女は思い始めた。その時、
「――何かする前からうじうじ考えんな。今立ち止まってる暇はねえんだから。」
不意にリランがラナに向かってぼそりと言った。
ぶっきらぼうだが、彼なりの優しさといったところだろうか。
一瞬驚いたラナだったが、にっと笑って返す。
「行動あるのみってことね。」
「ま、そういうこと。」
リランもつられて笑う。そんな2人のやり取りに、他3人は気付かなかった。
相変わらずの無音の世界の中をまた黙々と歩き続けていた。
「――なあ。」
一行は足を止める。微かだが、人の声が聞こえたのだ。
皆は辺りを見回す。だが、人影は何処にもない。
空耳だったのだろうか、とそれぞれがそう思った。だが、
「―なあ、なあってば!!聞けよ!!」
「やっぱ空耳じゃない!?」
「でも何処から!?」
セレナとラナが慌てふためく。さっきよりも大きく、しかも怒った声が確かに聞こえたのだ。
「どこにいんだよ!?出てこいってんだ!!」
探しても見つからないことにしびれを切らしたリランはがなり声をあげている。
シルフはやれやれ、といった様子であちこち見ている。
そんな中、一人じっと地面を見つめているハープ。何かを見つけたのだろうか。
それにしては、驚きの色が見える。
「あ、あの皆さん、足元・・・!」
「へ?」
ハープに言われるがまま、皆は一斉に足元を見やった。すると・・・・。
「やっと見つけた!さっきから呼んでんのにその態度は無礼だぞ、オマエら!!」
トーンの高い少年の声。その主は、小さかった。というより、小人だった。
背の高い草の上に乗っていたにもかかわらず、一歩間違えれば踏まれている。
それくらい小人は小さかった。
「・・・・・・ちっさ!!」
「ち、ちっさいだとぉ!?テメェー、おろすぞ!!」
セレナが思わず放った言葉に小人はおおいに反応する。
「あんたみたいな豆におろされるほどセレナはチビじゃないも〜んだ!この豆粒ドチビー!!」
まさしく売り言葉に買い言葉。そんな2人をみてあきれ返るほかの4人。
周りなどおかまいなしに2人は喧嘩をつづけていたが、息切れしたらしく、
しばらくするとおとなしくなった。これでようやく本題に入れる。
「で?要するに魔物退治してくれって?」
リランがはあ、とため息をつきつつそう言う。
コポルと名乗った小人は、そうさねと言って続ける。
「でさ、お前らの中に契約者がいるんだろ?
世界の異変くらいおいらだってちょっとは気付いてるさね。」
「あたしが契約者よ、コポル。確かに今は世界の危機なの。だから、
早く最後の精霊と契約しなきゃいけないの。」
ラナがすかさず名乗り出る。やっぱりか、とコポルは唸った。
「レモラ様のとこに案内したくてもその魔物が邪魔なんだ。
そいつら退治してくれたら契約石をやるよ。」
それを聞いて、一つ返事で一行は魔物退治を引き受けた。
しかし、いざ奥に行くと気味の悪い敵がうじゃうじゃいた。
「ぐぅわっ!!毒!」
「浄化の水よ、クレア!!」
毒効果をもつ植物性の魔物や、獰猛な魔獣の群れは厄介だ。
さっそくリランが毒をうけ、ハープに治療してもらう。
「黄色チョコボ!!いっけー!!」
「衝天閃!!牙連閃!!雷牙!!」
「フレアブラスト!!ロッククラッシュ!!」
その間に他3人は敵を蹴散らすことに専念する。だが、
「ああぁーー!!チョコボ達がぁ!?」
セレナがぎゃあぎゃあ喚く。ハープがすぐに治療にむかう。
「数多いですね・・・。万物に宿りし生命の息吹!キュアオール!!」
敵の数が多すぎて思った以上に苦戦を強いられる。
それでも、なんとか粘ること30分。
「終ったー!!」
なんとか戦闘終了。さっきのはコポルに言わせれば雑魚にすぎないらしい。
一行はさらに奥へと進む。
ちなみにコポルはふわふわな毛並みが気に入ったらしく、スーヴの頭の上にいる。
「そういや、さっきのが雑魚なら・・・この後はボスか?」
「そういうものなのか?」
一方、ふとリランがそう呟き、シルフが苦笑しながら応答する。
「そういうものだよーシルフさん。
雑魚の後はボスってのがRPGの鉄則よ!」
そこにラナが割り込み、ガッツポーズまでしてビシッと言う。
しかし、RPGが何なのかわからない皆はああ、そう・・・としか言えなかった。
「ま、退治してほしいのはここらの魔物のボスさね。
身体(ステータス)異常攻撃をするから気をつけろな!」
そんなボス談義を聞いたからか、コポルがそう言った。
今回は大変そうだな、と皆が思った時。
「・・・来る!!」
シルフがそう叫んだ。皆はすぐに戦闘体勢をとる。
「チルチルチー!?(人食い花!?)」
「スースス!!(避難でしゅ!!)」
「当たり前だー!!」
コポルを乗せたスーヴたちはすぐさま逃げた。
「きもちわるぅーーいい!!」
「そーねぇ、セレナ。つか、パッ○ンフ○ワーみたい・・・。」
皆の前にはとてつもなく巨大な植物。
根っこが足の役割をはたしているらしいが、鋭いとげが無数にあり、
足の本数も多く、蛸のようにも見える。
食虫花に似た、頭っぽい部位には肉食獣並みの牙。
そこから滴る消化液が地面を溶かしている。酸の濃度は硫酸以上だろうか。
「・・・・・・史上最悪の魔物だな。
消化液には決して触れないように!!」
シルフがすぐさま皆に警告する。もう敵は消化液を飛ばしている。
「あの、数がものすごくないですか!?」
「そりゃそーだよハープさん!
ギルフルは群れで敵をしとめるんだもん!」
大量のギルフルに怯えをみせるハープに、セレナが解説をいれる。
もちろん敵の攻撃をかわしつつ。ある意味、彼らはプロだ。
しかし、なかなか呪文詠唱もできないこの状況はなかなかキツイ。
「紅蓮剣!!真空破斬!!」
「流牙連!!」
リランとシルフも間合いをとって戦わざるを得ない。
「我らに吹き抜けし速さを!シャープ!!」
敵の攻撃は思ったより素早い。ハープは援護魔法をかける。
ギルフルは已然集団で襲いかかる。そして一斉に煙を吐いた。
「毒か!?吸うんじゃねぇぞ!!」
リランが紫色の煙を見てとっさに叫ぶ。辺りは煙で見えにくくなっていく。
「ちぃっ!追尾閃(ついびせん)!!」
シルフは矢を放つが、それは苦し紛れのようにも見えた。
だが、その矢は一連となって一匹のギルフルめがけて飛んでいった。
煙の中から矢が飛んでくるなんて、ギルフルは思ってもいなかったのだろう、
たとえ逃げようとも後を追ってくる矢に、あっけなく倒される。
その叫び声を聞き、今がチャンスだとラナは思った。
「大いなる海の神よ全てを飲み込め!ビッグウェーブ!!」
煙をかき消すように大津波がギルフルの集団を襲う。
「ついで!―大地の怒りよ熱き鼓動と響け!アドプレッシャー!!」
大波にもまれ溺れかけたかと思えば、台地の裂け目にはまり、
暑い溶岩と岩石のシャワーをあびせられる。ギルフルにとっては拷問もいいところだ。
だが煙に乗じて逃げていたのか、まだ数体残っていた。
それを見たセレナはにこっと笑って言う。
「セレナにお任せ!―我らに光を与えし火の精霊よ灼熱の地獄をこの者に!バハムート!!」
「私も加勢します!―天に駆ける光よ神の裁きを!レイ!!」
植物であるギルフルに、バハムートは効果覿面であった。
それに加えてハープの術が更なる力を与え、その威力は生半可なものではなかった。
一瞬にして火の海が全てを飲み込み、ギルフルは奇声を発することも、ましてや肉体を残すこともできず、
焼き尽くされてしまった。先ほど倒したギルフル達も、一匹残らず消えうせた。異臭だけを残して。
「よし、終わり!あーしんどかったぁ。」
「ミル!スーヴ!でておいでぇー?」
「この先、もっと大変な魔物がいるのでしょうか?」
なかなかむごいものを見たはずなのに、鼻を突き刺すような異臭が辺りを漂っているというのに、
そんなことおかまいなしに、けろりとしている女性陣。
一方の男性陣はというと・・・・・・。
「・・・・・・女って、こえーのな。なあ、シルフ。」
「あ、ああ・・・・・・。そう、だな。」
開いた口が塞がらなかった。幸いにも、彼らの言葉は、彼女らの耳には届かなかった。
*あとがき*
りこ:はーい、風の精霊さんには会えるかな?ってことで。
それにしても女性ってのは怖いんだよぉーってことで。
なかなか進まなくってごめんね。
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