第4話 〜神官〜



その旅人さん達は、真夜中と言っていい時にこの教会に来ました。

聞けば、3〜4日前にレベスト村を出て、このテヌートに来たと言いました。







「あーよかった!こんな真夜中でしょ?どっこも開いてなくってさ。

 宿屋は既にいっぱいだったし」

黒髪の少女は嬉々として喋ってくれました。

「そうなんですか。それは大変でしたね。ここに立ち寄るという事は

 ノーム様のご参拝に行かれるのですか?」

「そんなとこかな。それにしても、おっきな教会だねー。

 広すぎて目が回るよ」

「フフフフ、面白い方ですね。ここランバルド教会はこの地方で最も大きいんですよ」

「へえ〜。そういやあなたはシスターさんなの?」


子供のように無邪気なその少女は、部屋に案内する間、

絶えず喋り続けていました。先に青年さん2人を部屋に通しておいたので、

気軽にお話できて嬉しかったです。


「私は、神官です。ハープ=ローレライといいます。あなたは?」

「あたしはラナ!金髪の方はリランで、水色の紙の人はシルフさん。」

「そうですか。あ、ここがあなたの部屋です」

そうこういっているうちに、部屋につきました。

「あ、うん。ありがとー。じゃあ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい、ラナさん」

「ラナでいいよ。ハープさんの方がお姉さんだし」

「そうですか。じゃ、おやすみなさい、ラナ」


”パタン・・・”





私は部屋に戻ると、帽子とロザリオを脱いで、小さな机に頬杖をつきながら座りました。

旅人さんがこの町に来たのは、実に2年ぶりです。最近は魔物騒ぎをよく聞きます。

きっとそのせいなんでしょう。この町は大丈夫かしら、そんな事を考えながら、

ふと垂れた髪に目をやりました。黄色に近いけれど、オレンジの髪の色。

自分の髪なのに、何度見ても好きになれません。

私の家は、代々神官の家系でした。そして、その髪は金色と決まっていたはずでした。

けれど、私だけ、ちがったのです。幼いころはまだ良かった。でも、

8歳になったとき、気が付いたら、ここに置いていかれていました。

だから、この髪は嫌いです。









「ここは、薬が有名なんだ。俺もよく買いにくるんだ。

 でも、やっぱり元祖の店が一番いいんだ」

「へえ、そーなんだ。元祖ってどれなの?」

「それなら、あの小さな小屋ですよ。元祖と言うのも、

 2000年前ほどから続いている老舗だからなんですよ」

「また2000年?レイルと関係ありそうだねー」



その次の日。ラナにせがまれたので、町の案内をしました。

なにしろ大きな町だから、というのが理由でした。

私はあまり教会と関係のない所には行った事がなかったので、

少しどうしようかと思いながらも、歩いていました。


「そうですよ、ラナ。正確にはレイルと赤髪の少年です。当時のランバルド教会の司教が

 お金目当てに村の黒髪の少女を利用していたそうなんです。」

「って、利用したってどういう意味だ?」

「そうそう、あたしもそう思った」

リランさんとラナが興味津々でそう聞いてきました。


実をいうと、2000年前当時はレイルなんて言葉はありませんでした。

その言葉が作られたのは約1500年前で、500年の間は『聖女』と呼ばれていました。

聖女というのは、癒しの力をそなえた少女の事で、当時の司教もその聖女を利用したのです。

怪我や病気の人々に対し、薬草を使って治療していたのを、

聖女の奇跡の力と偽り、多額の寄付金を出させていたのです。

しかし、その事は本物の聖女と赤髪の少年によって見破られました。

その後は住人の協力もあり、薬屋としてここにおいてもらえたそうです。そう、説明しました。



「へえ〜。でも、その人をそのままおいとくなんて、よっぽど薬がよかったんだねえ」

「だよなあ。普通は追い出されてるぞ」

「そんな話があったとはね。正直驚いたよ」

3人はそれぞれの驚きの感想を言いました。なんだか、とっても楽しい。そう感じました。

そのせいでしょう、気が付いた時には、小さく笑っていました。

「どしたの、ハープさん。そんなにあたしらの反応面白い?」

「いえ、ただ楽しいだけです。本当に久しぶりなんです、楽しいとおもうのは」



「・・・・・・大変だったんだね」


「え?」


その時ラナに言われた言葉の意味は、その後もずっと、分かりませんでした。








その後、もう大体案内し終えたかな、と思った時。ラナは思いついたように言いました。

「そういえばさ、ここの他には村も町もないんだね。ここに来る途中も何にもなかったし」

「昔は、ここも村だったんですよ。でも、700年ほど前、この地方で一番大きかった町、

 ギルジャエルが突然の流行り病によって滅んでしまったため、

 近くの村々は協力し易いように合併したんです。だから、この町の他に村や町はないんです」

「そうなんだー。(ここでも合併問題とかあったのかなあ・・・)」




その刹那、町中に響くかと思われるほどの叫び声が聞こえました。


「きゃああああああああああああぁ!!!!!」

「うわあああぁーーーーーー!!!!!」



「何!?今の悲鳴!!」

ラナが周りを見ながらそう言いました。

「まさか魔物か!?」

「とりあえず行ってみよう!」

それにリランさんとシルフさんも続き、3人は声の聞こえた方へ駆け出しました。

私もその後を追うことにしました。









「うっわあ〜気持ちワル〜!」

「でけぇな・・・・・・。4mはあんじゃねえの?このサイ」

「いいから、やるぞ!リラン、ラナ!」

「うん!このサイ!町中で暴れるんじゃないの!」

「さっさと終わらそうぜ!火龍剣!!(かりゅうけん)」



私がその場に追いついた時には、3人は戦闘を開始していました。

私はただ、呆気にとられて見ていることしか出来ませんでした。

次の瞬間に見えたのは、リランさんの剣から出ている炎の龍でした。

「すごい・・・・・・。魔法剣士さんって、初めて見ました。」

「うん。すごいよねえ。フレアナイトっていうのかな?」

「えっ!?ラナ!いつの間に・・・」

「いいからいいから。ここは危ないよ?さがっててね?」

思わずポソッと呟いたら、すぐ目の前にラナがいました。

びっくりする私をよそに、ラナは笑いながら、私を後ろへと下げました。

きっと、私を巻き込まないようにという気遣いでしょう。


「こいつ、けっこう強ぇ!!」

「ああ!気を抜くなよ!!」

「わぁーってらぁ!!!」


「あぁ!苦戦中じゃん!助けに行かなきゃ!!ハープさんはここにいてね!!」

そう言うとラナは走って行ってしまいました。

急に雨が降ってきました。だんだん激しくなっていきます。

ここにいて。そういわれましたが、やっぱり不安で、後を追いました。

雨音が耳につく中、聞こえるのは足音と、金属のぶつかる音と、叫び声だけでした。



「2人ともー!!どいて!!」

「ラナ!?」

ラナが思いっきり高く飛び上がったのが見えました。人間業とは思えないくらいに。

並外れた運動神経の持ち主なのでしょうか?そう思った次の瞬間、

「せーのっ!!!」


”ザシュッ”


「グゥオオオオオォッ!!!!!!」

鮮血が飛ぶのが見え、すさまじい叫び声があたりに響き渡りました。

ラナはあのサイの頭に生えている角のすぐ真下に、ナイフを突き刺したのです。

「へへへ、この天候ならうまくできそうね。いくわよ!雷神召!!!(らいじんしょう)」


”ピカッ・・・ゴロゴロ・・・ピッシャーン”

「雷!?」

「ナイフを避雷針の代わりにして、雷を呼んだのか。うまく考えたな」

サイに雷を浴びせた後、ラナはナイフを抜いて下へ降りてきました。

「よっし!成功ー!ちゃんと効いたかなあ?」

「だといいんだがな。つか、なんでハープがここにいんだよ

 ラナ、お前ちゃんと遠ざけろよな」

それに答えたリランさんは、私がその場に居る事に気づきました。

「え、えっと・・・・・その・・・・・

「しょうがないじゃん、きちゃったものはさ。ね、ハープさん」

なんて答えようかと思ってまごついていた私に、ラナが助け舟をくれました。

「今はそんな事はどうでもいい。それより、今の攻撃だけであいつが倒れるとは思えない。

 どうにかしてあいつを倒さないと、大変だ」

そこに、シルフさんが冷静な意見を言いました。確かに、どうにかしないと、町の人々が危険です。


「グルルルルゥ・・・・・!!!!!」

「あ!起きちゃったよ!タフだねえ〜」

「んなこと言ってる場合か!!」

あのサイが起き上がってしまいました。ラナとリランさんがすぐに前へと出ました。

シルフさんは矢をつがえ、私も杖を出しました。


私は、初めてサイを真正面から見ました。

どこかで、いいえ、何かの書物で見たことがあります。

・・・・・・・・そうです!!このサイは、光に弱い魔物のリストに載っていたネライザールという魔物です!

なら、倒せます。あの術で、倒せます。



「ちょっ!!ハープさん!?危ないってば!!戻って!!」

「大丈夫です。私に任せてください」

それが分かったので、私は歩み出ました。ネライザールの目の前に。


「何か策があるんだろう。彼女に任せよう」

「うん。わかったよ、シルフさん」




ネライザールは、唸りながら、私にゆっくりと近づいてきました。

私は、目を閉じて、あの呪文を唱えました。

「光を恐れる魂よ無の空間に帰せ!バニッシュ!!」

「ギャオォ!!!!!」


”バシュンッ”


「え!?消えちゃった!?どういうこと!?」

ラナが真っ先にやって来て、そう言いました。

「あのサイはネライザールといって、光属性に弱いんです。だから、弱点を突いただけですよ。

 あの者は、消滅したんです。そういう法術なんです」

「へー。しっかし良く分かったなー」

リランさんが驚いた顔でそう言いました。

「教会にはそういった書物があるんですよ。光に弱い魔物のリストなどもね」

「法術は癒しの術だけじゃないんだな。はじめてみたよ」

シルフさんがそういいました。

「とにかく!倒せてよかったね!」

「はい」




それにしても、こんな町中にも魔物が出てくるとは思いませんでした。

でも、ラナ達は何かを知っているようでした。

だから、聞きました。何がどうなっているのかと。

ラナ達は答えてくれました。



「・・・・・・冥王。その者が、すべての源なんですね?」

「うん。この世界の4つの力を狙ってるんだって。」

「だから、ノーム様のもとへ行かれるのですね?」

「うん」

ラナは頷きました。

「でもよ、ここに魔物が出たってことは、結構やばいんじゃねぇの?」

そのとき、リランさんがそう言いました。

「ノーム様がってことか・・・・・・?」

それにシルフさんが続きます。すると、ラナが言いました。

「冥王が手を出してたら大変じゃん!!早く行こう!!」




どうしましょう?

なんだかものすごく大きな話です。

私はどうすればいいのでしょう?このような話を聞いてしまった以上、なんだかますます不安です。

ノーム様は、この地方では守り神のような存在です。

ノーム様に限らず、他の精霊様方もそうです。

その方達がいなくなってしまったら、大変です。多くの人々が困るでしょう。

私は、守りたいです。精霊様達を。人々を。

そう思いました。





「・・・・・・私も、行きます。行かせてください!人々を守るのが、私の役目です。お願いします」




3人は驚いた目で私を見ました。

「危険だと思うけど、いいのかい?」

シルフさんがそう言って、2人も頷きました。

「覚悟はできています。だから、お願いします」



「なら、さっさと来いよ」

「行こ!ハープさん!!」

「・・・・・・!は、はい!!」



私は、3人の後に続きました。

嬉しいと、そう思ったのは、久しぶりでした。





**あとがき**

りこ:はい、完了にょ。ちょっと無理やりだったかにょ?

   ま、気にしないでください!

ゆん:最初のうちは3人であーだこーだ言いながらやってたけど、最近はりこが1人で頑張ってます。

りこ:これからも頑張るにょ♪

斎:誤字・脱字、そのほか色んなことは、BBSかメールでお願いしますー。

りこ:よろしくー♪


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