第6話 〜精霊術〜
「ここだよ。この洞窟の奥に、ノーム様がいるの」
茶色がかったオレンジの髪を、地面すれすれで揺らしながら、セレナは言った。
「シンプルな形だね」
シルフがそう呟く。
たしかに、その洞窟は正方形の上に三角形が乗ったような、
そんなシンプルな形に刳り貫かれている。
シンプルではあるが、明らかに手の込んだ人工物である。
なぜなら、その洞窟の内側は、鏡の様に磨きこまれており、
岩とは思えないほどの光を放っていたからだ。
「・・・邪悪な気配がします。きっと、魔物でしょう・・・」
入ろうとしたとき、ハープがそう言った。
やはり、奥には魔物がいるらしい。
「にしても、結構都合よくいってるわね。だってそうでしょ?
4人もいる精霊のうち誰を、冥王が一番最初に狙うか、なんて分かんなかったのに」
ラナが疑問をぶつける。確かに誰も予測などできなかった。
冥王が、誰を一番最初に狙うかなど。もしかしたら、既に冥王の手に落ちていた、
なんてこともあるかもしれない。・・・あってはならないのだが。
「なんだー、知らなかったの?精霊様達との契約には、順序があるの。
土、水、火、風、の順番じゃないとだめなんだよー。
理由はきかないでね、セレナも知らないから。
・・・知ってて最初にここに来たんじゃなかったんだねー」
その問いに、セレナがさらりと答えた。
皆、そうなんだ・・・という顔になった。それを見て、セレナはかなり不安になった。
「と、とにかく!さっさと行こーぜ!」
リランが話を切り替える。皆もそれに続いた。
「滑りますね、この床」
「そうだね」
「つーか、どこもかしこもツルピカじゃねーか。眩しいっつーの」
ハープ、シルフ、リランが洞窟について立て続けにそう言う。
そんななか、ラナは1人ずれた事を言った。
「それは仕方ないよ。それより、この奥に魔物が居るんでしょ?
やっぱ、小ボスって奴かな?なんかドキドキしてきたー」
「ワケわかんねーよ。ってか、楽しんでんじゃねーよ!」
即効で、リランに突っ込まれた。
「も〜!!緊張感なさすぎー!!」
セレナがぷくーっと膨れる。はっきりいって、呆れているのだ。
「いいじゃないですか、セレナちゃん。気がまぎれて」
それをハープがなだめる。
「ちょいストップー。」
「?」
さっきまで膨れていたセレナが、急に皆を止めた。
静かに、と言って聞き耳を立てる。
どうやら、何かが近くに居るらしい。
なので、ミルとスーウ゛を偵察に出した。
「敵が近いのかい?」
「そだよ、シルフさん。ここって、複雑に見えるでよ?
だから、ちゃーんと注意しないといけないの。」
そう説明し、皆は2匹の帰りを待った。
「帰ってきたよ、セレナ。・・・なーんか慌ててる」
2匹を見つけたラナが言う。何かひどく慌てているようだ。
一体何を見てきたのだろうか。
「チルチルーチチー!!(魔物がすぐそこにー!!)」
「ススースーススー!!(メイジが戦ってるでしゅー!!)」
「ノーム様は大丈夫なの!?」
「チルチールチ(今のところは)」
「そう!!」
「なんかヤバイのね!?」
「んじゃ、急ぐぞ!!」
セレナと2匹の様子からすると、どうやら、ノームが危険らしい。
5人と2匹は、急いでその場へと向かった。
「あ!あそこで誰かが戦っているぞ!」
開けた場所で魔物と向かい合う人影を、シルフが確認した。
「アースメイジだよ、絶対!間に合ったみたいだね!」
「早く助けなきゃ!!」
それにセレナとラナが続く。
開けた場所には、白い台座のようなものがあった。
丁寧に装飾が施されたそれは、何か儀式に使うのだろう。
その前で、さっき確認した者達は戦っていた。
しかし、精霊と思われる者の姿は、なかった。
「グレイブ!!」
”ドドドドドドッ”
「ブリュウウゥ!!」
茶色のマントを羽織った、15〜6ほどの少女が呪文を唱えると、
地面から無数の岩の槍が突き出てきた。
しかし、魔物にはあんまり効いていないようだ。
魔物は、術が当たる瞬間に液体化しているのだ。
「あの子が、アースメイジなんだ」
「感心してる場合か!」
ラナがほーっとした顔をして言った。そしてリランがそれを一喝。
「あれはマンドスライムに似ているな。・・・物理的な攻撃は通じないようだね」
シルフが冷静にそう言った。
「だぁったら・・・ミル!!アタック!!!」
「チー!!(たぁー!!)」
セレナがミルに命令し、ミルは魔物にぴょんと飛び付いた。
そして、尻尾をぴんと立てた。
「チールチルチー!!(冷却ですー!!)」
その尻尾が光り、魔物を包んだ。
もやもやとした青い光は、徐々に固まっていき、ついには、
魔物をすっかり氷付けにしてしまった。
「ミルには、冷却能力があるの!」
セレナがちょっと自慢げに言う。
「すごっ!あ、ハープさん!メイジを診てあげて!」
「はいっ!」
ミルが敵の動きを封じている間に、ハープはメイジの治療を、
リランとシルフは攻撃準備をしていた。
「あ、あなた達は?」
メイジが驚いて、そう言う。
「安心して。契約者を連れてきたの。」
セレナがそれを返す。メイジは心底安心した顔になった。
「よかった・・・。ノーム様の力が弱りかけているのです。
邪悪な力を持つ何かがノーム様の力を狙っているようで・・・!」
メイジが説明する。それが冥王だとメイジには言った。
「ねえ、ハープさん。サイのときみたく消せないの?」
「無理です。あれは、ヒューマポイズン。水属性のものには効きません」
ラナは、どうやって魔物を倒そうかと考える。
「それに、あいつには物理攻撃は効かないよ。火属性もね」
それにセレナも混じる。ラナはうーんと唸った。そしてメイジに目を向ける。
「えーっと、メイジさん・・・」
「エレルクです」
「エレルクは、土属性の魔法、かな?それしか使えないの?」
「はい。私達メイジは、契約者が現れるまで精霊様をお守りし、
契約者が相応しい者かどうか判断します。そして、それぞれの守人として
精霊様の守護をお受けするので、私は土属性のみ扱えます。」
「そっか。うーん・・・。」
さらにラナは唸った。なかなかいい対策が浮かばないようだ。
「ヒューマポイズンは、水属性です。雷なら効くでしょうけど・・・・・・」
「・・・!!ハープさんナイス!!」
ハープの呟きに、何かひらめいたようだ。リランとシルフのほうへとかけていった。
「なにがどーなってんの?」
「さぁ・・・?」
「・・・・・・」
他の3人は、何がなんだか分からなくなってしまった。
「おい!鼠!!溶けてきてねーか!?」
「どうする?」
「ススースースー!(ミルー頑張るでしゅー!)」
ミルが固まらせたものが、だんだん溶けてきているようだ。
どうしようか、と考えていたところに、ラナがやってきた。
「あれ、溶かしていいよ!!」
「はあ!?ま、いーや。策、あんだろ?」
「あたりきしゃいしゃい!」
「変な言葉だね・・・」
「いーから、早く!」
よく分からないままラナに急かされ、2人は攻撃を開始する。
「衝天閃!!(しょうてんせん)」
シルフが上に向かった矢を放つ。放たれた矢は、強い光の筋となって、
ヒュ−マポイズンに降り注ぐ。それをうけ、固まっているはずのヒューマポイズンは、
大きく、ぐにゃりと変形しだした。固まっているせいで、身動きが取れないのだろう。
多少なりとも効いているようだ。
「衝破熱風斬!!(しょうはねっぷうざん)」
リランがそれに畳み掛ける。熱風を伴う一閃をくり出す。
熱風によって、溶かされたヒューマポイズンは、吹っ飛ばされた。
「よっし!!いくよー、雷神召!!」
”ピッシャーンッ”
「ブルルルゥウウゥ・・・・・・!!」
雷に打たれ、パリパリと放電しながら倒れた。そして、パシャンという水音と共に消えた。
「やったー!・・・でも、できるもんなんだねえ、天候関係なしに」
「お前、できなかったらどーするつもりだったんだ?」
ラナが感心したように言う。それを聞いたリランが、恐ろしそうに言う。
「・・・ミルくんは?大丈夫なんですか?」
一方、ハープは、ミルの心配をしていた。確かに、大丈夫なのだろうか。
「スススーススー(だいじょーぶでしゅ)」
「チルチルチチー(攻撃前ににげたからー)」
とにかく、これで一件落着となった。
「・・・それで、誰なのですか?契約者は」
エレルクが立ち上がって、セレナに向かってそう言った。
「え?・・・ラナじゃないかな?」
セレナは少し考えてから言った。
「え!?なんで!?」
それを聞いたラナは慌てふためく。周りを見ると、他のものも、頷いている。
「やっぱ、レイルだし?」
リランがあっけらかんと言う
「『鍵』というのが、世界のことに関係しているんだろ?
それなら、ラナかリランかセレナだろうと思っていたんだ」
シルフはそう言い、ハープも頷く。
「・・・じゃあ、あたしって、このためにこの世界に呼ばれたってワケ?」
「そーじゃねーの?『鍵』なんだし」
はーっとため息をついたラナに、リランがそういう。
それを聞いたラナは、あんたも鍵の1人じゃないか、といい返す。
「ちなみにセレナは、直感的に思っただけー」
追い討ちのごとくセレナが言う。
「はあ、わかったわよ。エレルク、あたしがそうよ」
間違ってたら、どうするつもりなんだろう?と思いながらも、そう告げた。
「分かりました。契約者ラナ。あなたをノーム様と契約するに値する者と認めます。
ノーム様、アースメイジ、エレルクの名に誓います。
そのお姿を現しください!」
”ゴゴゴゴゴゴッ”
エレルクがそう叫ぶと、白い台座の向こう側にあった岩が動き、奥へと続く道へとなった。
その奥には、大層立派そうな、古い部屋があった。
「はい、これ。頑張ってね、ラナ」
セレナは、ラナにそういって、杖を渡す。
「・・・この杖に付いてるのが、契約石なのね」
「そだよー」
「では、契約者よ、こちらへ」
エレルクに連れられて、ラナは奥の部屋へと入っていった。
「セレナたちは、ここで待ってるのー」
「そうなんですか。契約者しか入れないんですね」
「よくぞ来た。契約者よ。お主がくるのを待っていたぞ」
ノームは、そういった。
「あのー。ホントにあたしであってるの?
契約者とかそういうの、いまいちピンとこないんですけど。」
ラナはそう返す。ノームは笑った。
「当たり前だ。そのために、わざわざお主をこの世界に呼んだのだ。
時の神子エイラに頼んでな。実は、契約者はどの世界で生まれるか分からんのだ。
しかし、契約者には、『心を読む力をもつ』という共通点があるのだ。
だから、お主が契約者だと分かったのだ。
すまぬな、きちんと説明する暇がなかったのだ」
「それを聞いて、安心したわ。」
ラナは、ようやく自分がこの世界に呼ばれた理由をしり、少し楽になった。
「さて――。お主も知っておろうが、冥王が我らの力を狙っている。
なんとしても、阻止してもらいたい。そして、冥王を滅ぼしてくれ。
我らも協力を惜しまぬぞ。我と契約した後は、カナンへ向かうがよい。
そこに、石の守人と、水の精霊リウ゛ァイアサンがおる」
「わかったわ。」
こうして、ラナは無事ノームとの契約を交わし、土の精霊術を得た。
「これから、大変になるわねー。帰ることよりも大変だよー」
「そうですね、ラナ」
「次の目的地は、港町カナンか。南にずーっと歩く事になるね」
「どんくらいかかんだ?シルフ」
「4・5日もあれば行けるよ」
山を下りながら、そんな会話をしていた。
しかし、セレナだけは、なにか考え込んでいた。
「セレナ、行けない・・・」
「どしたの?急に」
セレナが急に立ち止まってそういったので、ラナが不思議そうに尋ねた。
「セレナ、・・・行けないの」
「なんで?」
「・・・・・・・・・・・・・」
セレナは黙り込んだ。
「なんか理由があんのね。聞かないであげる.。
でも、もう仲間だって、思ってたのにな・・・」
「行きたくねーならそれでいーだろ?」
そこへ、リランが急に割り込んできた。確かに本人が決める事だ。
だが、彼は一瞬笑ったように見えた。そして、続ける。
「・・・でも、コイツらは来る来マンマンだぞ?自分のペットの面倒ぐらい見やがれ」
「チルチルチー(セレナーいこー)」
「スススースー(この人達なら大丈夫)」
「・・・うん!やっぱ行く!!(ミル、スーウ゛、ありがと。)」
セレナは、嬉しそうに笑った。皆も、笑った。
*あとがき*
りこ:うーん。いろいろ無理があったので、ごちゃごちゃしながらも、なんとか、
話が通じるようにしましたにょ。
それにしても、セレナの心配事はなんなんだろにょ?
それは、あとのお楽しみー!!
ゆん:たのしそーだね。
斎:そだね。
りこ:なに?
2人:べーつにー。
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