第7話 〜攻守〜
山を下り、平らな道が広がる平野に慣れてきた一行は、のんびり歩いていた。
「精霊術の使い方なら、カンッタン!
契約した精霊様の力を引き出すための呪文を唱えるだけ。
呪文は、勝手に頭に浮かんでくるらしいから、心配なし!」
「へえ〜、そうなんだ〜」
セレナの説明を聞きながら、感嘆の声を上げるラナ。
「そいえば、セレナって魔法使い系なの?」
「ちょっとちがーう。セレナは、召喚師!ちなみに、
ラナが精霊様と契約してくれたから、
この石を使って、精霊様を召喚する事もできるの!」
「ふーん。・・・すごいねえ。
(つくづくゲームみたいだなあ。てか、普通は契約した人が召喚できるんじゃ?)」
それから、ラナは話題をこの世界についてに変えた。
「あたしの世界じゃ考えられないことばっかだねえ、ホント。
ここに来て出会ったのが二本足で歩く、しかも喋る狼だもん」
「それは半獣というんだ。知識を持った人と獣の間の生物だよ。
魔物と違って、人が生み出したものだから、主人命令には忠実に従うんだ」
「そっかー。だから皆びびってなかったんだ」
ラナが出会った者について、説明したのはシルフだった。
更にこの世界についての話は続く。
「この世界って、大陸とか色々あるの?」
「この世界には、二つの大陸があります。ここ、エウロピナ大陸と、
南のサンマイル大陸です。エウロピナ大陸は、そのほとんどを
アイル王国が治めています。しかし、
西の方は詳しくは分からないんです。丘と森があるらしいのですが」
世界の構成について答えてくれたのは、ハープだった。
そして、やはりラナは西の方について突っ込む。
「なんで西の方だけ分かんないの?」
「なんでだかさえ分からないんです。そこまで行った人がいないので。
古い文献によると、霊界サトュパスと通じているらしいんです。
『時の穴』と呼ばれるものが開く時期とかもあるそうです」
「へえー。不思議だねえ・・・。サンマイル大陸の方はどうなの?」
「そこは、サハラという国が治めているそうです。
私もサハラには行ったことがないのですが、砂漠に囲まれた国だそうです」
「なるほどなるほど」
大体が掴めてきたところで、リランがノームとの話の内容を聞いてきた。
「契約者はラナであってたんだな。で、どんな事言われた?」
「なーんか、全部仕組まれてたって感じ。
あたしはわざわざリンガロに呼ばれたらしいの。
契約者はどこで生まれるかわかんないらしいけど、
契約者は皆、心を読める能力(ちから)があるから、
あたしがそうだって分かったらしいわ。
・・・あれ?そーいや、ここにきてから・・・
意識しないと読めなくなったなぁ・・・」
「んなもん知らねーよ。っつか、心が読めるって・・・。
シルフと会ったとき使ったのはそれだったのか」
そうか、という顔と同時に、少しひくリラン。
ラナの独り言に近い説明が終わったとき、前方にいたシルフが足を止めた。
そして前を指差し、振り返りながら告げた。
「カナンが見えてきたみたいだよ」
その一言に、皆はわーっと反応する。
「あれがカナン?デッケーなって感じだねえ」
「セレナ、こんなの初めて見た!」
「ずっとエックスプレートにいられましたものね」
カナンは、この大陸で唯一の港町であり、自治区である。
いままで通ってきたtレベストやテヌートは、アイルの配下にあるのだ。
「早くいこっ!」
ラナがうずうずしながらそう言う。
「おお。オレ腹減ってんだ」
「じゃあ、まずは腹ごしらえだな」
それにリランとシルフが続く。
何はともあれ、一行は久しぶりの町へと向かっていった。
「わあ〜!!これが海!!すっごく綺麗だね、ミル、スーウ゛!」
「チルチルー(初めて見たよー)」
「スススー!!(感激でしゅ!!)」
初めての海にはしゃぐセレナ達。確かに、水が透明な薄い青色で綺麗だ。
「すっごいきれー!あたしの国とは大違いね。ね、この海の名前は?」
ラナも感銘を受けていた。そして、海の名を聞く。
「オレは知らねーな」
「スフィカというんですよ、ラナ」
「スフィカ・・・。いい響きだね」
「おーい、皆!店見つけてきたよ」
そこへ、店を探しにいってたシルフが戻ってきた。
皆は、シルフの後について行った。
そこは、海鮮料理の店だった。海に近いだけのことはある。
とりあえず、ご飯。
「・・・なんか、変な魚ばっかだったけど、意外とおいしかった」
「そだねぇー、ラナ。ミルとスーウ゛も満足だって」
「チー!(うまー!)」
「スー!(でしゅー!)」
それが終わったので、これからについて話し合う。
主に、この町の近くにいるらしい水の精霊リウ゛ァイアサンや石の守人についてだ。
「で、セレナ。なんか知らねーのか?その石の守人って奴のこと」
「セレナしらなーい」
肘をついていたリランは、少し滑った。
「しらねえって、お前も守人だろ?」
「他の事まで知らないよー!」
セレナはぷーっとふくれる。
「この町のどこかにいるってしかノームも教えてくれなかったし、
どうしようか?祭壇の場所とか分かる?」
ラナがはーっとため息をつく。どうしてこうも大事な事ばかり
誰もちゃんと説明してくれないんだろうと思った。
「シーズ祭壇の場所は、海の中。だから、正確な場所は知らないよ。
石の守人にしか分かんないんじゃない?セレナ達守人は、祭壇のある所まで
契約者候補者を連れて行くのも役目だから」
「そっかー。じゃ、やっぱ守人を探さなきゃいけないんだね」
八方塞だ、という顔をするラナ。
「この町にいることは確かなんだろう?だったら町の人に話を聞いてみよう」
「なにか知っていらっしゃる方がいるかもしれませんしね」
シルフとハープがそう言って、皆を励ます。皆もそうだねと言う。
「だったらまず、祭壇があるっていう海の方に行こうよ」
ラナの一言で、一行は祭壇があるらしいほうへと行くことにした。
「この浜から見える海のあたりらしいよー」
そう言って、だだっぴろい海を指差すセレナ。
そこから東の方には港が見えるが、ここには誰もいなかった。
「港の方の人は、何か知っていらっしゃるでしょうか?」
港の方を見て、そう言うハープ。リランとセレナがそれに続く。
「行ってみっか?」
「そだねー、いこっ!・・・って、ラナ?」
気が付くと、ラナが1人浜の方をぼーっと見つめていた。
「え?あぁ、あっちに人がいるのよ」
「すごい視力だな。俺には見えないよ」
何も見えないという顔で、シルフが感心して言う。
「あたし、なんか気になるから、あっち先に行って来る。
皆は港の方に行ってて。あたしもすぐ行くから」
そう言って、ラナは皆と別行動をとった。
港とは反対方向へと走る。浜は走りにくく、しかも結構その人物までは遠かった。
なんでそんな遠いところにいる者を見つけられたのか、そして、
気になったのか。それは、淡い水色の光が見えたからだ。
「はぁ、はぁ、し、んどい・・・。」
「お姉ちゃん大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫大丈夫。・・・あっ!」
ラナは驚いた。声をかけてきた、黄色がかった茶髪をポニーテールにした
その少女を見て。そして、少女は急に声を上げたラナに驚いた。
「ど、どうしたの?お姉ちゃん」
「あ、ごめん。さっき見た光と同じ色のペンダントしてるから」
「・・・!」
明らかに少女の顔が険しくなった。
「光がみえたの?」
「あ、うん。淡い水色の・・・」
じーっとラナを見て、言葉を紡ぐ少女。何かあるな、とラナは思った。
「あたしラナ。あなたは?」
できるだけ何か話を聞こうと思い、喋りかけるラナ。
「あ、アンジェ=フローレンス」
「その石、何かあるの?よかったら話してくれないかな?」
アンジェはしばらく考え、ポツリと言った。
「海賊に狙われてるの。ここカナンを拠点にしてる大海賊グリートの孫に」
「そうなの!?(海賊って・・・。なんでもアリねホント)」
「うん。でも、この石はとっても大事なものなの。だから、もうやめてもらいたいの」
「そっか。あたし、その海賊にあったら、ヤメロっていったげる!」
「・・・ぷっ!」
アンジェはおもわず吹き出した。
そして、アンジェと別れ、港へとラナは向かった。
「おっせーぞ、ラナ!」
「ごめんごめん!」
港で皆と合流し、収穫があったかどうか聞きあった。
「セレナたちのほうはサッパリだよー」
「あたしの方も・・・・・・・って、わゎっ!?」
ラナが急に前へつんのめった。
何かが後ろにぶつかったらしく、ドサッと言う音がした。
「いってぇー!!もう、つったてんじゃないよ!!」
少年のような少女だった。
短い青い髪はバンダナのせいで前髪しか見えない。
しかし、ワンピースのような服を着ているため、少女だと分かった。
「あー、もう!どろどろじゃんか!!責任とってよね!!」
少女は立ち上がって、服を見せながらラナに怒る。
ラナにしてみればとんだ言いがかりだ。
急にぶつかってきたのは少女の方なのだから。
「そんな事言われたって、ぶつかってきたのはあなたでしょ!?」
「うるっさーい!!責任とれー!!」
言い返すも、少女の方は聞く耳もたずだ。仕方がないので、ラナの方が折れた。
「もう、分かったわよ!でも、責任っていったってどうとるのよ?」
「ボクの手伝いをしてくれればいいんだ」
てっきり服のクリーニング代でも取られるのかと思っていたラナは、
思わずへ?と言ってしまった。
「だから、これからある物を取りに行くんだ。それの手伝い」
「はぁ・・・」
そうとしか言えないラナ。そこに、リランがぼそっと呟いた。
「おい、オレ達も巻き添えか?」
「いーじゃん、リラン兄。今んとこなんもないんだしさ〜」
結局、全員でお手伝い。
「じゃ、決まり!ボクはニルス。ヨロシク!」
皆もそれぞれ自己紹介をし、ニルスの後を追った。
港をぬけ、どんどん人気のない所へと移動する。
そして着いた所は、断崖絶壁の下にある大きなくぼみの中。
そこには大きな船が1艘、隠れるように泊めてあった。
「・・・ってか海賊船じゃん!」
あちゃ〜という顔をするラナ。それにハープが続く。
「ということは、ニルスちゃんも海賊、ということになりますね」
「セレナよりちっこいのに悪い事してるんだ。ダメじゃん!」
独自の理論とでもいうものを展開させるセレナ。
「どういう理屈なんだ?」
シルフがなかば呆れて言う。
「何してんの!こっちだよ!」
「え?」
ニルスは更に隣に泊めてある小船へと皆を連れてきた。
「こっちかよ・・・」
つっこむものの、脱力しているリラン。そんなことはおかまいなしで、
ニルスは準備にかかる。
「実は皆には内緒なんだ。ボクが何かしようとすると、絶対だめって言うんだもん」
「そりゃ、皆君の事を心配しているからだろ?」
ぶつくさ言うニルスにシルフがそう言う。
「そうだけどさ!子供扱いされんのいやなんだよ!」
よくある子供の行動パターンだな、と皆はひそかに思った。
(・・・そーいや、アンジェのペンダントを狙ってるのも海賊なんだよね・・・嫌な予感)
ラナは1人、そう考えていた。
そして、出発。くぼみから出て、海岸沿いに進み、また岩山にでた。
しかし、よくみるとそこは祠と呼べる場所だった。
「ここにあるの?その『ある物』っていうの」
セレナがキョロキョロとあたりを見回す。
「チルチルチチー(なんかコワイですよー)」
「そだよ。さ、降りた降りた!」
一行は歩けるらしい所に降りた。薄暗い祠は、少し不気味だった。
「なーんか、寒ぃーな」
リランがそう言う。皆もそうだねと言う。ニルスは慣れっこのようだった。
「あちら、なにか光っていませんか?」
「そだね、ハープさん」
「また来たの?」
「誰かいるみたいだね」
突如響いてきた声。シルフはそう言って、ニルスに確認を取る。
「うん。ボクが狙ってる物の持ち主。いつもここにいるんだ」
「っていうか、人のモン盗もうとすんな!」
あっけらかんというニルスに、リランが突っ込む。
「くるよー、こっちに」
「スススー(光の中からー)」
セレナ達はそう言って、光っている方を指差す。
その中から現れたのは、小さな人。逆光で顔は見えない。
だが、姿形から少女だろう、と皆は思った。
「あー・・・。嫌な予感的中かも。つーか、こーいうオチって、多いのよね・・・」
ラナがそう呟く。そういうのも、現れた少女がラナの知っている人だからだ。
「ラ、ラナおねえ、ちゃん!?どうして・・・!」
そう、アンジェ=フローレンスだった。
*あとがき*
りこ:はーい、これでリンガロの前編オシマイにょ!
この話は21話構成ですにょ♪だから、このあと中編、後編があるにょ!
もしかしたら、1話が長くて、また上下に分かれる可能性もあるにょ。
んじゃ、まっててね〜♪