第9話 〜海の神〜

           




           「うっへぇ〜・・・!!すっげーなぁ此処。全面ガラス張りじゃねーか」

           
           祭壇へと続く道を見た瞬間、リランが素っ頓狂な声上げた。


           確かにその通路は、床も天井も壁も全てガラスで作られていて、その向こう側には、

           あるはずがない海水が満ちていた。島の上なのに、そこは海底トンネルの様だった。


           しかし、皆はそんな事よりもリランの言い方がツボったらしく、

           思わず吹き出してしまい、笑いを必死にこらえていた。

           「な!なんだよっ!?笑うこたねぇーだろ!!」

           「ご、ゴメン!!でもっ・・・ぷふっ、あははは!」

           それを見て真っ赤になったリランを前に、ラナは一番長く笑っていた。


           しかし、ひとしきり笑うと真剣な面持ちに戻った。

           「・・・で。やっぱ魔物だよね?この独特な気配」

           「だろうな。奥へと続いている。・・・しかし、こんなに気配を残していくなんて、

            明らかに挑発しているね。または罠かな」

           魔物との戦いの中で培われたのだろう、ただの学生だったはずのラナも、

           魔物の気配を感じ取る事ができるようになっていた。

           そして、彼女に相槌を打ちつつ、この後の動きをどうとるか考えるシルフ。

           「もし罠なら、どうするんですか?」

           ハープが心配そうにそう聞く。だが、一同は「うーん・・・」と唸るのみ。



           「あ〜〜っもうっ!行くしかないジャン!!ワナだろーがなんだろーが!」

           そんな中、いじったらしいような雰囲気が大嫌いなセレナが叫ぶ。

           考えても意味がなければ行動あるのみ、ということらしい。後ろで2匹も叫ぶ。

           「そだね。いくっきゃないよね!」

           ラナは笑ってそう言う。他の者もやれやれ、といった感じだ。


           そして、皆は奥へと向かって走っていった。







           勘を頼りに進んでいた一行だったが、突然シルフが声を上げた。

           「これは・・・?」


           皆はその声に反応し、彼の示す方を見た。

           「わあー!!キラキラ〜♪」

           「ガラスではないですね・・・」

           きゃーっと声を上げるセレナに、少し考えているようなハープが続く。

           「これ・・・クリスタルじゃん!!しかも、めちゃくちゃ純度が高い・・・!

            あたし、こんなにすごいの初めて見た・・・」

           ラナの言う通り、皆の前方にはクリスタルがあった。しかし、ただあるわけではない。

           彼女らが見た所からは、ガラス張りだったものが、クリスタル張りになっていたのだ。


           「でもよぉ、なんでこのでっけぇ階段からは全部ソレになってんだ?

            なんか意味でもあんのか?」

           リランが首を捻りながらそう言う。

           「クリスタルっていうのは、あたしの世界では霊的力を最も通しやすい媒体らしいの。

            きっとこの世界では魔法の力を高めるために使うんじゃない?」

           ラナが推測してその問いに答える。リランは分かったような分からないような・・・

           という反応だった。そこに、セレナが言った。

           「もしそーなら、きっとリヴァイアサン様の近くまで来てるんだろーねー。

            わざわざ魔力増強の品を置いとくんだもん」




           「チル!!(セレナ!!)」

           「ススースー!!(何か聞こえる!!)」

           その時、耳のいい2匹が何かを聞き取り、セレナに告げた。

           その音はだんだんと他の皆の耳にも届くぐらいの大きさになっていった。

           「声、ですね・・・。しかし、なんと言ってるんでしょうか?」

           「そんなことわかんないけどさ、敵っぽくない?ノリ的に。やっぱ待ち伏せされてたね」

           「そだねーラナー。セレナもそー思うよ」

           女子3人が次々に言う。他2人は辺りを警戒していた。



           「・・・!!何か来る!上から!!」

           ラナの一言に、皆はばっと上を向く。すると、どこからか風が吹き荒れてきた。

           しかし、その次の瞬間、


           「チー!!(ギャー!!)」

           「ススー!!(わぁー!!)」

           「ミル!!!スーヴ!!!」

           2匹が切り裂かれていた。慌てて2匹を抱き上げるセレナ。他は、

           それぞれの武器を取り出し、戦闘態勢をとる。

           「全てを癒す光り!ヒーリング!!」

           ハープがすぐさま2匹を治療する。ラナとリランとシルフは風の出所を掴もうと、

           悪戦苦闘していた。



           「カマイタチのようだが、あまり長く喰らうのは避けたいな・・・」

           「そんな悠長な事いってんじゃねーよ!!おい、ラナ!しっかりしろ!!」

           「痛い痛いっ!!斬られるなんてイヤー!!!せめてこの風の源が分かれば!!」

           3人は前衛にいるのでよけいに風に切りつけられる。

           それを見たセレナが叫んだ。


           「これ!精霊術だよ!どっかに術者が潜んでるはずだから、気をつけて!!」

           「だからソイツはどこにいんだよ!!」

           すかさずリランが突っ込む。ある意味パターン化しているともいっていい。

      

           「あー!!もぉ、あたしバカだー!!あたしも、やりゃあよかったんだよ!

            いっけー!!グレイブ!!!」

   
           ”ズドドドドドォッ”


           急にラナが変なことを口走ったかと思うと、術を唱えた。

           無数の岩の槍がクリスタルを突き破って現れた。それは一瞬にして、

           あたり一面の色を変えてしまった。


           「すごいな・・・」

           シルフがぽつりと言った。

           「あ!あれ見ろよ!!」

           一方リランは空を指差しながら言った。その先には、宙を舞う魔物の姿が。

           倒すのなら、今が絶好のチャンス。リランは剣を構えて、飛び掛っていった。

           シルフもそれに続いて矢を放った。


           「空翔連殺撃!!!(くうしょうれんさつげき)」
 
           「牙蓮閃!!(がれんせん)」

           繰り出した剣は、すばやく宙の敵を捕らえ、さらに上へと切り上げていく。

           そして最高点に達すると、紅蓮剣でそのまま真下へと叩き落した。

           シルフが放った炎の矢は叩き落された魔物に見事命中した。

           地面に落ちた魔物は、火達磨といった方が合っていたが、すぐに灰と化した。

           「・・・よし」

           「おわったぜ!」

           そう言うと、彼らは細い道を駆けていった。

           後の者も、慌ててその後を追って駆けていった。









           「・・・・・・来ました。リヴァイアサン様」


           真正面に奇麗な装飾が施された壇と、磨きこまれた大きな鏡をすえた大きな部屋で、

           1人の少女が誰にともなく言うかのように呟いた。

           そこへ、息せきって走ってきた一行が飛び込んできた。

           少女は祈るような体制から立ち上がって振り返り、皆を見た。

           歳は10代後半。真っ白なマントと、青い珠玉で飾った長い髪が揺れていた。

      

           「よくぞ来た、契約者よ。我が名はアクアメイジ、マリン。水の精霊リヴァイアサン様を

            守護するものなり。さぁ、汝が力、我の前に示せ!!」

           マリンと名乗った少女は高らかにそういった。


           「いや、力を示せって・・・・・・。ラナ1人でやるもんなのか?それ」

           リランがマリンに向かって、そう尋ねた。

           「いや、あたし1人じゃ無理に決まってるから!」

           ラナがその後ろでぶんぶんと手をふりながらそう言う。

           「全員で構わない。私を倒せばいいだけなのだからな。さあ、いくぞ!

            アクアシューター!!」


           「いきなりぃ!?」

           「チルチチチー!!(危なーい!!)」

           「スススススー!!(ぎゃあああ!!)」


           マリンが翳したタンバリンのような形をした武器から、水球が10個ほど飛んできた。

           ハープがすかさずバリアーを唱える。バリアーはアクアシューターを打ち消す。

           その僅かな間に、セレナが何事か唱えだした。


           「母なる星を生みし地の精霊よ大地の怒りを今此処に!ノーム!!」


           ”ズドドドドドドドドドドドッ”


           どこからか地響きが聞こえたかと思うと、小人くらいのノームが大勢走ってきて、マリンにぶつかっていく。

           「あれ、ノーム!?つーか、多っ!!」

           呆然として、その大群を眺めるラナ。他の者も、開いた口がふさがらない状態だ。

           「セレナは召喚師だもん!ノーム様を呼んだの!まあ、みててよラナ!」

           セレナは得意げにそう言った。


           そんな会話のさなか、まともにくらったマリンは、ノームの大群に飲み込まれていく。

           「キャアアアッ!!!!」

           あまりの多さに彼女の叫びをかき消したノーム達は、集まって、固まって、巨大ノームになった。

           ノームは兎に似た足でその場から跳び上がると、そのままマリンを踏みつけた。

           「ガハァッ!!くっ・・・・・・!!」
 
           
           吐血がクリスタルの上にひろがり、あたりを赤く染める。ノームはとうに消えていた。

           「ぐ、ぐうぅ・・・・・・ま、まだだ!!」 

           マリンはよろめきながらも、必死に立ち上がる。そして、ヒーリングを唱えた。

           「あ、あいつ、法術もつかえんのか!?」

           リランが驚きの声を上げる。マリンの傷がすぐに癒えたところをみて、

           セレナが残念そうに唸った。

           「やっぱり土属性じゃ、だめかぁ・・・」

           「いや、セレナ。あれは受ける方も、見てる方もキツイよ・・・・・・」

           シルフがセレナに向かって、固い顔のままそう言った。


           「余所見する暇はないぞ!!フリーズランサー!!」

         
           ”シュババババッ”


           「氷の槍が飛んでくる!?」

           「くっそ!爆龍剣!!!」


           ”ゴォシャアアァァァ・・・ッ”


           氷の槍と、炎の龍はぶつかって、互いに消えた。

           「相殺、ですね・・・・・・。私達、勝てますよね?」

           ハープが泣きそうな顔をする。勝てるのだろうか、という不安に駆られたのだ。

           「だめだよ!そんな弱気になっちゃ!あたしは絶対勝つつもりよ!」

           「そーだよ!ラナのいうとーりだよ!」

           それを励ますかのように、ラナとセレナが言った。

           リランとシルフも笑って頷いた。



           「さあ、今度はこっちの番だ!」

           「いっくぜぇー!!」

           「作戦通りにいくわよ!」

           「ミル!!スーヴ!!」

           「チー!!(はい!!)」

           「スー!!(イェイ!!)」

           気を取り直して、再び戦闘に戻る。

           マリンはざっと身構え、これからくるだろう何かに警戒する。

           ラナ達は、すぐに動いた。

           
           「いくわよ!プレス!!」

           「チルチルチー!!(冷却攻撃!!)」

           大きな岩の壁がマリンの周りに落ち、辺りを押しつぶしていく。

           それに足をとられたマリンを、ミルが凍らせ、身動きを封じる。


           「衝天閃!!」

           スースススー!!(スターダスト!!)

           そこにシルフの衝天閃と、スーヴのスターダストを浴びせる。


           「リラン!!いまよ!!」

           「おう!紅蓮剣!!」

           ラナの合図で、リランが止めを刺す。


           ”ドォッゴォォ・・・・・・ンッ”


           激しい爆発が起こった。皆は一斉に伏せる。煙がもうもうと辺りを包み、次第に消えていった。

           皆は立ち上がって目を凝らし、マリンの様子を伺った。

           煙が消え去ったとき、マリンが床に突っ伏しているのを確認した。

           皆は息を整え、じっと待った。

           

           「・・・・・・汝らの力、認めよう。」

           しばらくして、彼女は立ち上がり、そう言い放った。

           「やったぁ!!」

           皆は喜びいさんだ。

           「よかった・・・・・・!」

           ハープはその場に座り込んだ。


           「アクアメイジ、マリンの名にて誓います!リヴァイアサン様、お姿をお現し下さい!」

           そんな中、マリンは祭壇の上に飾られた立派な鏡に向かって、そう叫んだ。

           「普通の契約って、こんな感じなんだ・・・・・・」

           ラナがぽそっと呟いた。

           リヴァイアサンは鏡の中から光と共に出てきた。


           「よくぞきた、契約者よ。冥王より先にきてくれたことを感謝するぞ。

            我の次は火の精霊バハムートの元へ。サハラ王国へ行けば分かるだろう。

            頼んだぞ・・・・・・!」

           「分かったわ。さ、契約を交わしましょ」

           口では軽く言ったが、本当は、とても大きな不安と責任感が重くのしかかっているラナだった。








           「アンジェ!もしかして待ってたの!?」

           ラナ達が祭壇から出てきたとき、そこにはアンジェが立っていた。

           「・・・・・・お姉ちゃん、ラピスは・・・・・・?」

           「ラピス?もしかして、あなたの身体を借りてたっていう?」

           「うん。・・・ラピスはね、最後の守人だったの。でも、3ヶ月前に、病気で・・・・・・。

            だから、私が代わりに石を守ってたの。ラピスと一緒に・・・・・・」

           
           「そう、だったの・・・・・・。アンジェ、ラピスはね、あなたのこと大切だって、言ってたわ。

            きっと、『ありがとう』って言ってると思うよ。空の上で・・・・・・」

           涙をいっぱいに溜めた瞳で、アンジェは、笑った。

           何度も、何度も、頷きながら・・・・・・。






             *あとがき*

               りこ:さあさあ、つぎは砂漠の国!!火の精霊編!!

                  さらに物語はヒートアップするにょ!!

                  冥王との接触はいつかにょ〜♪


                  まて次回!!!